デュランダル議長の私室に呼ばれるということは、つまりそういうことだから。

アスランは、きちんとシャワーを浴びて来た。

髪が乾ききらなくて、いかにも過ぎるかなと思ったけれど、まあいいか、と言うことにした。

ドアをノックし、応えがある。

事務的な行動。

「失礼します」

「やあ、よく来たね」

落ち着いた、しかし良く通る声に迎えられ、しかしいつも通り敬礼することも忘れて、アスランは部屋の入り口で目を見張った。

暗い色合いのソファに座る人のその側に、直立不動で立っている、赤い制服の少年。

シン・アスカ。

確か彼には、こういった意味では議長の息はかかっていないと認識していたのだが。

「驚いたかね」

この場を支配する男は、橙玉の瞳を緩く光らせて、アスランを手招きした。

「はい。・・・正直」

素直に答えながら、アスランはギルバートの前に立った。

今度こそ背を正し、敬礼する。

「彼から、相談を受けてね。君が好きだが、どうしたらいいかと」

アスランは、わずかに眉を寄せて少年に視線を移した。

彼は、まるで挑むようにアスランを睨んでいる。

そんなふうには、見えないのだが。

「恋愛相談など受けたのは、久しぶりだったよ。まあ、君に関してだったら、私にも出来ることがあったからね」

だからここに呼んだのだと。

人心の機微と操作に長けたギルバートのことだ。どうせ、シンの様子を見て、思うように話を持っていったのだろう。

・・・・ほとんど会わないギルバートにわかったシンの恋心に、ずっと同じ艦に乗っていた自分が気づかなかったことは、もう仕方のないことだとアスランは諦め切っている。

自分の鈍さは折り紙付きだ。

「さあ、シン」

ギルバートは傍らに立つシンの背を押した。

シンは一歩、足を踏み出す。

「・・・・・っ、だって、仕方ないだろ！あんた偉そうだしうるさいしムカツクけど、でも強いしカッコイイしキレイだしっ・・・・あ、憧れてたダケだけど、でもなんか妙に手が届きそうなトコにいるしっ」

「おやおや、告白はもう少し、素直にした方が良いと言っただろう」

「・・・っ」

真っ赤になってしまった少年と、それを面白そうに見上げる上司を交互に眺めたアスランは、努めて冷めた声を出した。

「それで、私にどうしろと？」

言われることなど、わかっているつもりだったが。

「抱いてあげたらどうだい？」

ギルバートに言われたことは、まるきり逆だった。

「・・・・は？」

彼に抱かれて見せろと、そう言われるのだと思っていた。そうしてその後に、ギルバートにも抱かれるさまを少年に見せて、面白がる。そういう趣向だと。

しかしギルバートはにこにこと期待に満ちた目でアスランを見つめ、シンは真っ赤になったまま、何も言わずにうつむいている。

既に、そういうことになっているらしい。

まあ、自分がするかされるかの違いしかない。趣向としては一緒か。

でも。

「君は、そちらの経験はないと言っていただろう？」

後輩の前で、童貞なのを暴露され、特に動じるでもないアスランは、しかしシンがわずかに目を見張ったことにも気づかない。

「いえ、しかし・・・」

ギルバートと自分ならば、互いに気持ちがあるわけではない。

権力を持つ者に、その身を差し出すことの意味をアスランは知っているし、ギルバートもそれを命ずる意味を知っている。

しかし、シンは。

素直でない分、先程の言葉は、鈍いアスランにも真摯に伝わったから。

「望みがナイことくらい、わかってますよ」

そんなアスランの思考を、叩き切るようにシンは言った。

「だって仕方ないじゃないですか、スキなんだから！」

言葉を失ったアスランに、畳み掛けるように。

「抱いてあげなさい。アスラン」

議長の、命が下った。

---